REMINISCE

297月2014

REMINISCE

今気になる洋服があります。EG(エンジニアドガーメンツ)というブランドです。デザインを手がけるのは鈴木大器氏、52歳です。彼はNYに住んでいます。
彼は27歳くらいからボストン、ロサンゼルス、ニューヨークとアメリカ中を転々としていたそうです。彼の服の魅力は平均的でないことでしょう。何かが飛び抜けている。彼は押しなべて手頃で誰もが良いと思う服を作っているわけではありません。例えば価格は高い、縫製はボロボロ、でも生地は特別という何か一つ特別なものがあればそれが商品として作り上げられる人です。
彼の商品は敢えてアメリカサイズで展開されます。渋谷にある彼の商品がおいてある店は一見すると入口も分かりません。店の名前は「ネペンタス」食虫植物ウツボカズラのことだそうです。こうした不自由さを補っても買いたくなる服なのです。胸囲107センチの私でもシャツはSサイズで丁度いいのです。19世紀のワークシャツをリメイクしたものでは決してありません。19世紀のシャツをイメージとして取り入れ、彼流の解釈で再構築されたもの。だから全く別物でなのです。
彼はユニクロを消耗品と思って割りきっても購入を躊躇すると言います。私も全く同感です。しばらく前なら消耗品として割り切っていかもしれません。しかしこの歳になると消耗品だからというエクスキューズは身に付けるものには要らないと思います。着たいものを着たいそれだけで良いのでは。
彼が言っていましたが、若い時に池袋パルコでNYの7人展という企画物を見たのを覚えていると。私はその現場にいました。あの時、時代の寵児たる箱がパルコで若者はそれぞれ刺激を受けていました。彼はそういった一切合財のものを袋にしまって米国に渡ったのでしょう。水槽のあちらとこちらで同じ魚を見ているのにその後の人生が全く異なる。よくあることです。
彼が言うように当時は簡単には海外のことは分かりませんでした。NYがどんなところでどんなものなのか。赤貧の青年はせいぜい映画グロリアでジーナローランズがくわえタバコで闊歩するシーンからその街を想像するしかなかったのです。
彼は言いいます。天賦の才を持ったものは別として凡人は経験と知識を積まなければ何事も成功しないと。確かにその通り。私も40才近くまで失敗の連続でした。熱が入り過ぎて周りが見えなくなり案の定の失敗を繰り返します。でもこれだけは譲れない一線があります。その一線を簡単に明け渡す人間を私は今でも信用したくありません。結果として40歳を過ぎてからこの拘りが澱のように堆積し下地を作るのです。
渋谷の公園通りにアップスフォーというパルコの別館のようなものがありました。その中にREMINISCEという店が入っていました。商品はビンテージ風の破れたシャツやミリタリー調の古着もありましたが、商品はとにかく混沌としていてどのジャンルにも属さなかったのです。あるイベントでこの店のファッションショーを行いました。行わせた側から言うのも失礼ですが、見ていてこれほどドキドキしたショーはありませんでした。なにせ全てが手作り、ショーに出演するモデルもお店の子が演じていましたし、演出そのものもそうでした。素人ゆえ緊張を和らげるためにテキーラ(たぶんそうだったと思う)をストレートで一気飲みしてステージに立ちました。ところがこれがかっこよかったのです。白々しいモデルの演技ではなく、この洋服が好きだという気持ちが伝わってきました。ショーが終わってその子は現場に座り込み大泣きをしました。そういえば彼の渋谷の店は当時のREMINISCEに雰囲気が似ている気がします。
あれから30年、考えてみると好きなモノは変わりません。そう人間の本質的なところで気持ちのいいと思うことは変わっていないと思います。そういえば鈴木氏もサーフィンをやるそうです。もちろん住んでいるロングアイランドだけでなくハワイでも。ここでも彼と水槽の向こう側で会っているのかもしれません。

2013年11月8日


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